文責:柴口竜也
歯を抜かない(非抜歯)矯正治療について述べてきましたが、それらの矯正治療が成功するためには、一般的には骨格的な不正があまり無い場合に有効になります。
しかし、骨格的な不正があっても、成長期(6歳~12歳くらい)の患者様の場合には、顎の成長発育をコントロールすることを先立って行っておけば、多くのケースで非抜歯治療が可能になります。
エッジワイズ治療(後期治療)に先立って行う顎の成長発育をコントロールする治療を、当院では前期治療と呼んでいます。
骨格的な不正咬合には、上下顎の前後的関係から(A)上顎前突・(B)下顎前突、上下的関係から(C)開咬・(D)過蓋咬合、左右的関係から(E) 交叉咬合の5タイプ(写真9および10)があります(組み合わさったケースもあります)。それぞれの前期治療について、詳しく説明いたします。


上上顎前突とは、いわゆる『出っ歯』のことですが、写真11のように上顎骨が下顎骨より前方に突出しています。その特徴を挙げてみます。

前に出ている(過成長の)上顎骨を後ろに引っぱるのか、後ろに引っ込んでいる(劣成長の)下顎骨を前に出すのかで、使用する装置が異なります。
上顎骨の過成長がある場合には、上顎骨に後ろ向きの力を加えて、上顎骨の成長を抑制します。
また、奥歯を後ろに移動させることも可能です。主に就寝時に使用して頂きます。
写真12は首から上顎骨を後ろに引っ張っていますが、写真12のように後頭部から引くタイプのヘッドギアーもあります。

下顎骨の後退や劣成長の場合には、下顎骨が前方に成長するように、ファンクショナルアプライアンスを使用します。ヘッドギアーを併用することもあります。
この装置も、取り外しが可能な装置で、主に就寝時に使用して頂きます。

下顎前突の特徴について下顎前突とは、いわゆる『受け口』のことですが、写真14のように下顎骨が上顎骨より前方に突出しています。上下の前歯の関係が正常な状態とは逆になるため、反対咬合ともいいます。その特徴を挙げてみます。

身長が伸びると下顎骨も大きくなります。そのため、上下の前歯の関係がいったん正常になっても、成長途中で再発する可能性がありますので、成長があるうちは経過観察する必要があります(小学校低学年から、晩期性の成長のおさまりがつく高校生ぐらいまで経過観察することもあります)。
骨格的な要因が弱い場合には、リンガルアーチという装置を用いて上顎前歯を前に出し、正常な上下前歯の関係を作るようにします。骨格的な要因が強い場合には、前に出ている(過成長の)下顎骨を後ろに引っ張るか、または、後ろに引っ込んでいる(劣成長の)上顎骨を前に出すような治療も併せて行います。
歯のみを動かす装置です。弾線により歯の後ろから力を加え、上顎前歯を前に動かします。骨格的な不正が軽い場合には、この装置のみで正常な上下前歯の関係が得られます。
下顎骨の過成長がある場合には、下顎骨をエラスティックというゴムにより後ろ向きに引っ張って、下顎骨の成長を抑制します。主に就寝時に使用して頂きます。口の中にリンガルアーチを併用する場合も多くあります。
上顎骨の劣成長の場合には、上顎骨が前方に成長するように、フェイスマスクからエラスティックを用いて上顎を前方に牽引します。口の中にはリンガルアーチや急速拡大装置(写真3)などの固定式装置が装着されており、その装置にフェイスマスクからのエラスティックがかかる仕組みになっています。
チンキャップと併用するタイプのフェイスマスクもあります。この装置も、主に就寝時に使用して頂きます。

写真15

写真16
奥歯で咬んだときに前歯が全く咬み合わないような状態を開咬といいます(写真18)。
開咬のみになっている場合もありますが、上顎前突や下顎前突(特に上顎前突)と併発している場合も多くあります。その特徴を挙げてみます。

口呼吸や舌突出癖が原因で開咬が起こると、これらの癖がさらにひどくなります。癖がひどくなると開咬も悪化するという悪循環に陥ってしまいます。この悪循環を絶たない限り、開咬は治りません。いったん治ったように見えても、癖が原因で開咬が再発することも多々あります。人間は一日に約2,000回もつばを飲み込みますが、その度に、無意識に舌を突き出して上下前歯の間にはさむのですから、この癖を止めるのがいかに難しいかお分かり頂けると思います。
開咬以外に大きな骨格的な不正が無い場合には、まず原因となっている舌突出癖を治すために、タングクリブ(写真19)を入れます。この装置により、舌が上下前歯の間に出てこなくなり、歯に加わっていた異常な舌の圧力を遮断することができます。開咬の程度が軽い場合には、癖を治すだけで開咬も治ってしまうことがあります。
また、鼻や喉の疾患が原因と考えられる場合は、耳鼻咽喉科での治療をあわせて受けて頂くようお勧めすることがあります。

開咬は、上顎前突や下顎前突と併発している場合が多く、その場合は、他の骨格的な不正を先に(又は同時に)治します。例えば上顎前突を伴った開咬の場合、不正の状態として、前歯が低く、奥歯がのび出ている(過萌出)ので、治療としては、のび出た奥歯を骨の中に引っ込めるように矯正力をかけます。写真20の装置はトランスパラタルアーチといいますが、舌の圧力がこの装置にかかると、上顎の奥歯が骨の中に入るような力がかかります。また、ハイプルヘッドギアー(写真21)を併用し、奥歯を骨の中に引っ込める力を増やしながら、上顎骨の成長も抑制します。
奥歯で咬んだときに、正常な咬合状態では、上顎前歯が下顎前歯の1/4~1/3程度を覆っているのですが、それ以上に深く覆っている状態を過蓋咬合といいます(写真22)。過蓋咬合のみになっている場合もありますが、上顎前突と併発している場合がとても多いです。その特徴を挙げてみます。

不正の状態として、前歯がのび出ていて奥歯が低いため、治療としては、先ず、低い奥歯がのび出るようにします。のび出た前歯を引っ込めるのは主にエッジワイズ治療(後期治療)で行います。

上顎に装着する装置で取り外しが可能です。バイトプレートを装着すると、装置の平面と下顎前歯が接触しますが、上下の奥歯は離れて咬み合わない状態になります。歯というものは、咬んでいない場合、咬み合う歯を求めてのび出てくる性質を持っていますので、このことを利用して治療します。装置は、食事と歯磨き時を除いて、できるだけ長い時間(15~20時間程度)の使用が必要です。
この装置も上顎に装着し、取り外しが可能です。バイトプレートが下顎前歯の接触する部分が平面であるのに対し、ジャンピングプレートはこの部分が斜面になっています。
バイトプレートとほぼ同じ効果が期待できるだけでなく、下顎が後退・劣成長している場合(上顎前突)にも有効です。この装置も、食事と歯磨き時を除いて、できるだけ長い時間(15~20時間程度)の使用が必要です。
過過蓋咬合を伴う上顎前突の場合に有効です。低い奥歯がのび出るように調節することが可能です。この装置も、取り外しが可能な装置で、主に就寝時に使用して頂きます。
(写真12)は首から上顎骨を後ろに引っ張っていますが、上顎の奥歯が後ろに動くだけでなく、のび出るように下へ引っ張る力が同時にかかります。主に就寝時に使用して頂きます。
奥歯で咬んだときに、正常な咬合状態では、上顎前歯が下顎前歯の1/4~1/3程度を覆っているのですが、それ以上に深く覆っている状態を過蓋咬合といいます(写真22)。過蓋咬合のみになっている場合もありますが、上顎前突と併発している場合がとても多いです。その特徴を挙げてみます。

上下顎の奥歯の正常な左右的関係は、上顎の奥歯が下顎の奥歯より外側にあるのですが、その関係が逆の場合すなわち上顎の奥歯が下顎の奥歯に対して内側に咬合するものを交叉咬合といいます。交叉咬合には両側性と片側性があり,下顎が著しく前方位をとると(下顎前突の場合)左右の両側に(写真24-E-Ⅰ),下顎が一方の側にずれると片側に(写真24-E-Ⅱ)交叉咬合が生じます。
片側性の交叉咬合の場合、ほとんどのケースで上下顎前歯の正中が左右にズレてしまいます。また、片側性交叉咬合がひどくなると、正面から見た場合に顎が左右片側に曲がって見えるようになりますし、顎関節にもズレが生じてしまいます。
下顎に比べて上顎の横幅が狭い場合には、上顎の横方向への拡大を行います。拡大装置には、急速拡大装置(写真3)、クワッドヘリックス(写真4)、拡大床装置(写真5)があります。
それぞれの拡大装置についてはこちらに詳しい説明があります。
片側性交叉咬合の場合、多くのケースで上顎の拡大により上下顎前歯の正中のズレは少なくなります。さらに、このズレの治療はエッジワイズ治療(後期治療)でも行います。