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3-10 歯列矯正に立ちはだかる"痛みの壁"を考える!

春から夏にかけて暖かくなると、何か新しい事にチャレンジしたくなるのか、当院でも初診相談が増えます。学校歯科健診の時期と重なることもその原因かも知れません。そんなわけで、「そうだ!歯列矯正を始めよう!!」と思い立っても、多くの人に立ちはだかる壁が2つあります。1つめは矯正装置の見た目が悪くて目立ってしまうこと。そして2つめが、装置による痛みでしょう。今回は"痛みの壁"について考えてみたいと思います。 

歯列矯正の経験があるお友達から「めっちゃ痛くて、豆腐も食べられない」と脅かされたと言って、ドキドキしながら相談に来られた中学生がいました。人は、自分の経験をオーバーに伝えるものです。本当に豆腐も食べられないのなら、最低でも2年はかかる矯正治療を耐えられるはずがありません。お友達が"痛みの壁"を越えることができたのなら、この中学生もきっと越えられるはずなのです。 

しかし、痛みの問題を越えるべき壁ととらえると、やはり、歯列矯正治療はしんどいものとなってしまいます。壁が低ければ、あまりしんどいものではないのかもしれませんが、壁自体を取り去ることができれば、そもそも悩む必要なんて全くなくなります。 

先ずは、なぜ矯正で歯が痛むのかを考え、その原因から"痛みの壁"を取り去る可能性のある装置について考えてみたいと思います。

◇ 矯正の痛みについて 

歯は歯槽骨と呼ばれる骨の中に埋まっていますが、直接に歯槽骨と接しているのではなく、歯根膜と言われる靱帯(歯周靭帯)を介してその位置を保っています。矯正装置を着けて歯が動くのも、歯根膜のお陰で、もし、歯と歯槽骨が癒着していれば、歯は全く動かないのです。また、この歯根膜はセンサーの役割も果たしていて、例えば、石のような硬い物を噛んでも歯が壊れないのは、このセンサー機能が働いて瞬時に噛む力を調節するからです。 

噛む力は数kg~数十kgにもなりますが、食事中に歯が痛くなったり、歯が動いたりしません。実は、食事の際に歯が接触している時間は1日中でたった20分間ほど。このような一時的な負担は、仮に大きな力であっても、歯根膜にとって"想定内"であり、傷むことなどありません(歯軋りや、歯牙接触癖(TCH)があると、顎関節症になるかもしれず、"想定外"の事態になることがあります)。 

それに対して、矯正力は大きくても数百g程度と、噛む力よりは弱いのですが、装置装着中、持続的に歯根膜に負担をかけます。このような持続的な負担がある程度大きくなると、歯根膜の毛細血管が圧迫され血行障害を引き起こします。それはもう歯根膜にとっての"想定外"の事態。この時、歯根膜は痛みを発します。この痛みこそ、"想定外"を知らせるSOSサインだったのです。 

◇ "痛みの壁"を取り去るかもしれない装置

歯列矯正による痛みの正体が分かりましたから、歯根膜に血行障害を起こさせないような弱い力で矯正できれば痛みを無視できる可能性があります。実は、矯正装置による力ではないのですが、全く痛くなく歯を動かしてしまう実例が存在するのです。 

例えば、舌突出癖という、舌を歯に押し当てる癖を持った人がいます。唇が閉じられず、お口がポカンと開いておれば、歯が徐々に押し出され出っ歯(上顎前突)になってしまいます。これがまさしく、そのような実例です。出っ歯になる過程で痛みを訴える人は存在しません。もし、痛みを感じていれば、出っ歯が酷くなる前に矯正歯科を訪れていたかもしれません。しかし、実際は見た目が悪くなってから来院されます。

つまり、舌などの口腔周囲筋が発する生理的な力を、矯正力として利用できれば、痛むことなく歯は動くのです。歯根膜に血行障害を起こさせないような弱い矯正力を生み出しながら、口腔周囲筋を利用するとのコンセプトで開発されているエッジワイズ装置にセルフライゲーションブラケット装置があります。

従来のエッジワイズ装置は、生み出す矯正力が大きく、歯は常に非生理的な状態に置かれていました。だから、歯根膜は痛みという形で、"想定外"のサインを出していたのです。しかし、セルフライゲーションブラケット装置では、治療初期から最終段階まで一貫して歯を縛り付けることなく治療できる構造を実現でき、痛みを軽減できる可能性があります。

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